訪問記録や診療情報提供書に、「GAF:50」「GAF:30」といった数字が出てくることがあります。
このGAFとは何か、簡単に説明します。
GAFとは
GAFは「Global Assessment of Functioning(機能の全体的評定)」の略です。精神症状の重さと日常生活の機能を合わせて、0〜100で評価します。
- 91〜100:症状なし、日常生活に支障なし
- 71〜80:軽度の症状、全体的に機能している
- 51〜60:中等度の症状、社会的・職業的機能に支障あり
- 41〜50:重篤な症状、または機能の著しい障害
- 21〜30:行動がかなり妄想・幻覚に左右される、または機能不全
- 10以下:自分や他者を傷つける危険が高い
現場ではどう使うか
私が担当している利用者さんのGAFは、30〜65くらいの方が多いです。
GAFが上がっていくことは、状態の改善を示します。でも数字だけで判断はしません。「GAF50だけど今週は調子よかった」「GAF60だけど最近様子がちがう」——数字と実際の様子を組み合わせて見ます。
一人暮らしの方の場合、GAFスコアが下がり始めたときに生活面での確認事項も増えます。
家族が知っておくと役立つこと
主治医や訪問看護師がGAFという言葉を使ったとき、「今どれくらいの数字ですか」と聞くことができます。数字で共通認識を持てると、変化を把握しやすくなります。
DさんのGAFスコアが変化した経緯
Dさん(36歳)のGAFスコアは、最初の関わりでは31でした。「多くの面に粗大な欠陥がある状態」というレベルです。服薬が不規則で、借金問題が重なり、仕事も続かない状態が続いていました。
関わり始めて6ヶ月後、GAFスコアが41に上がりました。「仕事に行けるようになった」「服薬が週に5日以上できるようになった」という変化が出てきたころです。数字だけではなく、実際に「Dさんの顔つきが変わってきた」という実感がありました。
1年後にはGAFスコア50になりました。「中等度の症状がある。または社会的・職業的・学業的機能の中等度の困難がある」というレベルです。「GAF50」というと数字だけでは伝わりにくいですが、Dさんにとっては「デリバリの仕事を週5回できるようになった」「借金の返済計画が立てられた」という具体的な変化の積み重ねでした。
GAFスコアの「限界」も知っておきたい
GAFスコアは便利なツールですが、「数字で全部を表せるわけではない」という限界もあります。1〜100の数字に、その人の生活の複雑さを全部入れることはできません。「GAF50」でも、「先週は借金の催促が来て眠れなかった」という苦しさはスコアに出ない。「GAF31」でも、「今日は久しぶりに外を散歩できた」という喜びはスコアに入らない。
数字は「変化を記録するため」のツールです。「今月はスコアが上がった」「先月より下がった」という変化の記録が、支援の経過を振り返るのに役立ちます。でも「スコアが高い=回復している」「スコアが低い=状態が悪い」という単純な見方はできない。スコアを「変化の目安」として使いながら、本人の語りや生活の様子と合わせて見ることが大切です。
スコアを本人に伝えることの意味
GAFスコアを本人に伝えることがあります。「去年の今頃より上がっていますよ」と言うと、Dさんは「そうなんですね」と少し嬉しそうな顔をしました。「自分が回復しているという証拠が数字になっている」という感覚は、回復の動機づけになることがあります。
「以前はもっとひどかった」という言葉をDさんが笑いながら言えるようになったのは、「今は以前より良くなっている」という実感があるからです。その実感を支える一つが、「スコアが上がった」という客観的な記録です。数字が「自分の変化を確認するツール」として機能するとき、GAFスコアは単なる記録以上の意味を持ちます。
GAFスコアは、診療情報の中だけで使われる数字ではありません。「あなたは変わってきている」という証拠として、本人と共有できるものです。Dさんが「俺、51になれるかな」と笑いながら言った日、それがこの仕事の醍醐味だと思いました。
GAFスコアが数字になるまで
GAFスコアとは、Global Assessment of Functioning——機能の全体的評定——の略称です。0から100の数値で、その人の心理的・社会的・職業的機能を総合的に評価します。100に近いほど機能が高く、0に近いほど重篤な状態を意味します。
この数字は、外から見た機能の評価です。「電話がかけられるか」「外出できるか」「自炊ができるか」「人と会話できるか」——そういった行動の積み重ねが、スコアという数字になります。でも数字は、その人が内側で何を感じているかを表しません。そこが難しいところです。
Dさんのスコアが31だったころ
Dさん、36歳。統合失調症の診断で、私が訪問を始めたときのGAFスコアは31でした。31というのは「現実検討能力または社会的機能に対してある程度影響を及ぼす、妄想や幻覚がある」というレベルです。
実際のDさんの状態はどうだったか。カーテンを閉め切った部屋で一日中横になっていました。食事は一日一食。入浴は週に一回あるかどうか。電話が鳴るたびに怯え、宅配便が来るたびに「監視されている」と思い込んでいた。会話は成立しますが、現実とそうでないものの区別が難しくなっていることがありました。
GAF31の人と毎週会うことは、簡単ではありません。何を言っても信じてもらえない日があります。訪問すること自体を「来ないでほしい」と言われる日もありました。それでも来続けることで、少しずつ「この看護師は敵ではない」という認識を積み上げていきました。
スコアが動く瞬間
Dさんのスコアが動き始めたのは、訪問から半年が過ぎたころです。最初の変化は小さなものでした。「今日は少し外に出てみました」。その一言で、私は記録に書きました。「外出あり、自発的」。
次の週は「コンビニに行けました」。その次は「一駅分歩いた」。Dさん自身は「こんなことたいしたことない」と言っていましたが、GAF的に見れば確実に変化していました。外出できるようになることで、社会的機能の項目が上がる。それがスコアに反映されていきます。
六ヶ月後のGAFスコアは43。一年後は50になりました。GAF50というのは「重篤な症状があるか、社会的・職業的機能に何らかの問題がある」レベルです。数字だけ見ると「まだ問題がある」と読めますが、Dさんにとって31から50への変化は、全然違う生活を意味していました。
GAF50のDさんの日常
GAFが50になったDさんは、週に三回は自分でコンビニに行けるようになりました。ウクレレを始めて、自宅で練習するようになりました。「先生に習いたい」という気持ちが出てきたことも、一年前には考えられなかった変化です。
幻声はまだあります。「今日も声が聞こえましたか」と聞くと、「ありました。でも前ほど怖くなくなった」と言います。症状がゼロになったわけではありません。でも、症状と自分の関係が変わった。その変化こそが、GAFスコアの変化に現れています。
GAFスコアは、回復の「地図」のようなものだと私は思っています。今どのあたりにいて、どこへ向かっているかを確認するための道具。数字に振り回されず、でも数字を無視せず、その人の生活全体を見ながら使う。それが精神科訪問看護師としての使い方だと感じています。
Dさんは今日もウクレレを弾いています。GAF31からの距離を、私は毎週の訪問で少しずつ確かめています。
GAFスコアを「使う」ということ
GAFスコアは便利なツールですが、使い方を間違えると逆効果になります。「あなたのGAFは40だから、まだ就労は難しいです」などと伝え方を誤ると、その数字が本人の自己評価を縛ることがあります。数字は状態の記述であって、その人の価値や将来を決めるものではありません。
私がGAFスコアを活用するのは、主に多職種連携の場面です。主治医、ケアマネジャー、支援員、家族——関わる人が多いとき、共通の言語として「現在GAF42、三ヶ月前が35だったので改善傾向です」と伝えることで、チームが同じ認識を持てます。
Dさんのスコアが教えた「見えない変化」
Dさんのスコアが31から50になった過程で、私が気づいたことがあります。スコアが上がっていくときには、必ず「小さな行動の変化」が先にある。GAFは結果であって、原因ではない。外出できるようになった、ウクレレを始めた、「怖くなくなった」と言えるようになった——そういった日常の変化が積み重なって、スコアになる。
スコアを上げようとして介入するのではなく、その人の日常の小さな変化を丁寧に見て、支えていくことで、結果としてスコアが上がる。それがGAFスコアの正しい使い方だと、Dさんが教えてくれました。
Dさんは今日もウクレレを練習しています。「先生に習いたい」という気持ちが、行動につながる日も近いかもしれません。GAF50という数字は、Dさんの今の生活の一断面です。次の訪問で、どんな小さな変化があるかを楽しみに、訪問カバンを手に取ります。
GAFスコアと「本人の感覚」のズレ
GAFスコアは外側から見た機能の評価ですが、本人の感覚とズレることがあります。「外出できている」という事実はGAFを上げますが、本人は「外出するたびにものすごく疲れる」と感じている場合もある。スコアだけを見て「改善しています」と言うと、本人の苦労を無視することになります。
私はGAFスコアを記録するとき、必ず「本人がどう感じているか」も一緒に記録するようにしています。「GAF43、外出週3回。ただし本人は外出後に著しく疲弊すると訴えている」という記録が、次の支援者に正確な情報を渡します。
Dさんのスコアが50になったとき、「よかったですね」と私は言いました。Dさんは「まあ、少しはマシになった気がします」と言いました。その「気がします」という言葉が大事です。まだ確信ではない。でも、以前の「何もかも最悪」という感覚からは変わってきている。その変化をGAFという数字で捉えながら、本人の言葉でも確認する。それが私の使い方です。
今日もDさんの訪問があります。「今週はどんなことがありましたか」と聞きます。その答えの中に、次のGAF評価の材料があります。数字と言葉を両方持ちながら、Dさんの回復を一緒に見ていきます。
GAFスコアという道具を手にしながら、私はいつも「数字の向こうにある人」を見ようとしています。31から50への変化は、Dさんが毎日少しずつ積み重ねてきた努力の結果です。その努力を「43になりました」と数字で語ることもできるし、「コンビニに自分で行けるようになりました」と言葉で語ることもできます。どちらも正しい。でも後者の方が、Dさんの変化の実感に近い。両方を持ちながら、今日もDさんのウクレレの話を聞きに行きます。
数字は地図の上の点です。でも旅をしているのは、その人自身です。地図を持ちながら、その人の歩き方を大切にすること。それがGAFスコアの正しい使い方だと、Dさんが教えてくれました。
Dさんのウクレレの音が、先週の訪問で初めて聞こえました。「少し弾いてみました」と言いながら、二小節だけ弾いてくれた。その音を聞きながら、私はGAF31だった日のDさんを思いました。カーテンを閉め切った部屋で横になっていた人が、今は楽器の音を出している。数字で言えばGAF19ポイントの変化ですが、その変化は数字をはるかに超えています。今日もDさんの訪問があります。今週は何小節弾けたか、聞いてみます。
Dさんのウクレレの音が、先週の訪問で初めて聞こえました。「少し弾いてみました」と言いながら、二小節だけ弾いてくれた。その音を聞きながら、私はGAF31だった日のDさんを思いました。カーテンを閉め切った部屋で横になっていた人が、今は楽器の音を出している。数字で言えばGAF19ポイントの変化ですが、その変化は数字をはるかに超えています。今日もDさんの訪問があります。今週は何小節弾けたか、聞いてみます。
坂本なつ(精神科訪問看護師・12年)