精神科の入院を繰り返している方を、訪問看護で担当することは少なくありません。「また入院になってしまった」という報告を受けるたびに、「なぜこの人は繰り返してしまうのか」を考えてきました。12年の経験を振り返ると、再入院を繰り返す理由には、いくつかの共通したパターンが見えてきます。今日はそのことを書いてみます。
まず:再入院は「失敗」ではない
「また入院させてしまった」と本人も家族も自分を責めることがある。でも私は、入院は「失敗」ではないと思っています。状態を整えるための選択です。問題は「入院した」という事実よりも、「なぜ繰り返してしまうのか」を考えないまま退院して、また同じことを繰り返していることです。そこに目を向けることが、次につながります。
Dさんのこと——金銭的なストレスが引き金になっていた
Dさん、40代の男性。入院を何度か繰り返してきた方でした。デリバリ配達の仕事をしながら、借金の返済を続けていました。訪問のたびに「収入と支出のバランスが不安」という話が出てきました。デリバリ配達の収入と給与を合わせても、毎月の返済や生活費でギリギリだという。障害年金をもらえるかどうかもまだわからない。「もらえないかもしれない」という不安を抱えながら働いていました。
「もし年金がもらえなかったら、どうやって返していくのか」という不安が、頭の中をぐるぐる回っている。配達の仕事は体を動かしている間は集中できるが、休憩中や夜になると不安が戻ってくると話していました。「数字を考え始めると止まらなくなる」と言っていた。金銭的なストレスが高まると、Dさんは易怒的になる傾向がありました。会話が飛躍的になる、気分・感情に敵意が出てくる。職場でもちょっとしたことで声が大きくなってしまうことがあると話していた。「あとで振り返ると、なんでそんなに怒ったのかわからない」と言っていた。
Dさんは数字で話すことができる方だったので、収入と支出を一緒に書き出したこともあります。「具体的に整理してみると、今月はなんとかいける」という確認ができると、少し落ち着くことがあった。不安の正体が「漠然とした恐怖」から「数字の問題」になると、対処できる感じがするんだと話してくれました。「わからない状態が一番こわい。わかれば、なんとかなると思える」と。Dさんは職場の客への接し方についても悩んでいました。「配達先の人に過度にサービスをしてしまう自分がいる」——断れない、余力を使い切って夜に崩れる。そういうパターンが見えていました。
パターン① 退院後のサポートが薄すぎる
入院中は手厚いサポートを受けられます。でも退院した瞬間、そのサポートが一気になくなります。退院直後は最も状態が不安定になりやすい時期です。「退院後3ヶ月が勝負」と私はよく思っています。このタイミングに訪問看護がしっかり入れているかどうかが、再入院を防げるかの大きな分かれ目になります。退院直後は週複数回の訪問を入れて、安定してきたら少しずつ頻度を減らしていく——段階的な移行が重要です。退院してきた日の訪問については退院してきた日の玄関先にも書きました。
パターン② 薬が続かない
服薬が途絶えることが、再入院の直接の引き金になることはとても多いです。「調子が良くなったからやめた」「副作用が嫌でやめた」「飲み忘れが続いてやめていた」——どの場合でも再発リスクは高まります。再入院を繰り返している方の多くは、服薬の問題と切り離せません。訪問看護が毎回薬の確認をするのは、「管理する」ためではなく「一緒に確認する」ためです。薬をやめてしまう理由については薬をやめてしまう理由に詳しく書きました。
パターン③ 生活のストレスが対処の限界を超える
金銭的な問題、仕事のトラブル、家族とのぶつかり合い、近所との関係——日常生活のストレスが重なって、状態が崩れていくパターンです。Dさんのケースもこれに近かった。「ストレスが高まってきたときに早めに誰かに言える」かどうかが鍵です。「先週から眠れていない」「借金の返済が心配で頭から離れない」を早めに話してもらえれば、介入のタイミングが早くなって崩壊を防げることがある。でも「言っても仕方ない」「迷惑をかけたくない」と思って抱え込んでしまうと、気づいたときには手遅れになっていることもある。
また、「ストレスにどう対処するか」を一緒に考えることも大事です。「金銭的な不安が出てきたら数字を書き出してみる」「眠れない夜が続いたら連絡する」など、自分なりの対処法を持てるようになることが長期的な安定につながります。Dさんはこの「数字を書き出す」が自分に合っていたようで、「書いてみると少し落ち着く」と言っていました。
パターン④ 本人がSOSを出せない
迷惑をかけたくない、心配させたくない、どうせわかってもらえない——SOS を出すことが難しい方は、気づいたときにはかなり悪化してしまっていることが多い。Dさんは「相談するのが苦手」と言っていましたが、配達の仕事の途中でもLINEを送ってくれることが増えてきました。「今日ちょっとイライラしている」「夜眠れなかった」という短い連絡が来ることが、早期介入につながりました。「短くていいから、調子が変わったら連絡してください」と伝えていました。長い説明や相談じゃなくていい。「今日しんどい」の一言だけでいい。その一言が来たから、「今週もう一度訪問できますか」と動けた。一言のLINEが崩壊を防いだことが何度かありました。
パターン⑤ 障害年金や制度への不安が解消されていない
Dさんのように、経済的な不安が精神的な不安定さに直結しているケースは少なくありません。「障害年金がもらえるかどうかわからない」「申請の仕方がわからない」「仕事を続けられなくなったらどうなるのか」——こういった制度や経済面の不安は、精神症状そのものと切り離せません。Iさんという50代の方の話も思い出します。知的障害もある方で、心理士と一緒に障害年金の書類を記入したとき、用紙の意味が理解できなかった。「やっぱり自分は理解できない人間なんだ」と落ち込んだと話してくれました。書類の複雑さが、自己肯定感を下げていた。訪問看護師の仕事は、直接制度の手続きをすることではありませんが、「相談員さんに聞いてみましょう」という橋渡しはできます。
クライシスプランを一緒につくる
再入院を繰り返してきた方と一緒に、「クライシスプラン」を作ることがあります。「自分が崩れる前にどんなサインが出るか」「そのときにどう対処するか」「それでも悪化したときに誰に連絡するか」——これを事前に決めておくことで、本人も周りも動きやすくなります。
Dさんと一緒に作ったクライシスプランには、「夜に借金の数字が頭から離れなくなったとき→看護師にLINEする」「職場でイライラが2日続いたとき→受診の予約を入れる」「睡眠が3日連続で取れなかったとき→緊急連絡する」という項目がありました。「紙に書いてあると、崩れてる最中でも確認できる」とDさんは言っていた。崩れているときほど、判断力が落ちる。だから事前に決めておくことが意味を持ちます。
「繰り返してきた」ことの中にある学び
再入院を繰り返してきた方の中には、「もう諦めた」「どうせまた入院するから」と言う方もいます。でも私は、繰り返してきた中にも学びがあると思っています。「金銭的なストレスが重なると崩れる」「睡眠が3日続けて取れないときが危ない」——繰り返してきたことで、「自分の崩れるパターン」が見えてくることがある。それは大きな情報です。
Dさんは今、「自分が崩れる前のサイン」を少しずつ言葉にできるようになってきました。「職場でイライラが増えてきたとき」「夜に数字をぐるぐる考え始めたとき」——それが「早めに連絡するタイミング」だとわかってきた。これは、入院を繰り返してきた中で積み重なってきた自己洞察です。再入院は「終わり」ではなく、「また仕切り直す機会」です。何度繰り返したとしても、それは回復のプロセスの中にある。そう思って関わることにしています。回復の考え方については回復とはどういうことかにも書いています。
日中の過ごし方が安定のカギになることがある
再入院を繰り返す方の生活を見ていると、「日中に何もすることがない」状態が続いていることが多いです。朝起きて、特に予定もなく、ただ時間が過ぎていく。そういった空白の時間が、不安や反芻を生みやすくします。
Dさんは仕事があったことが、ある意味では助けになっていた部分があります。「配達している間は頭が空になる」と言っていた。体を動かすことで、頭の中のぐるぐるが少し止まる。でも仕事が終わって家に帰ると、また不安が戻ってくる。「家にいる夜の時間」をどう過ごすかが、課題のひとつでした。
デイケアや地域活動支援センターなど、日中に人と過ごせる場所を使うことで、状態が安定しやすくなることがあります。「特別なことをしなくてもいい、人がいる場所にいるだけでいい」という方もいます。「誰かに見てもらえている感覚」が安定の支えになることがある。入院を繰り返してきた方が、デイケアに通い始めてから入院がなくなったというケースを何度か経験しています。
生活の中に「居場所」があること。「また明日もここに来ていい」という場所があること。それが再入院を防ぐ大きな力になります。居場所については回復とはどういうことかにも書きました。
GAFスコアが改善したとき
訪問看護の記録には、GAF(全体的機能評価)スコアを記録することがあります。Dさんの場合、不安や易怒性が強い時期はGAF31で「多くの面に粗大な欠陥がある」という状態でしたが、借金の見通しが少し立ち、仕事のリズムが安定してきた時期にはGAF50まで改善していた。数字だけで人を見るわけではありませんが、「変化している」ということを記録に残せることは、本人にとっても「回復している」という証拠になります。
「以前はもっとひどかったんですよ」とDさんが笑いながら言ったことがありました。「あのころは何に対してもキレてた。今はだいぶマシ」と。自分自身の変化を言語化できるようになることが、回復の証のひとつです。GAFスコアについてはGAFスコアとは何かにも書いています。
「入院しないこと」が目標ではない
再入院を繰り返してきた方と関わるとき、「入院しないこと」を唯一の目標にしてしまうと、うまくいかないことがあります。なぜなら、入院が必要な状態になったとき、それが「失敗」に見えてしまうからです。本人も「またやってしまった」と自分を責め、立ち直るのが遅くなる。
私が意識しているのは、「入院しない」ではなく「より自分らしく生きられる」を目標にすることです。入院になっても、それは失敗ではなく「一時的に状態を整える選択」。退院してきたら「また再スタート」。その繰り返しの中で、少しずつ本人が「自分の崩れるパターン」を知り、「早めに対処できる力」をつけていく——それが回復の形だと思っています。Dさんも今、「入院しないこと」より「デリバリの仕事を続けながら、借金を少しずつ返すこと」を目標にしています。その目標が見えているとき、Dさんは安定しています。
「繰り返す」ことへの眼差しを変えること
再入院を繰り返す方に関わる中で、自分自身の眼差しを問い直すことがあります。「またか」という気持ちが出てきたとき、それは「疲れている自分」のサインかもしれない。「繰り返すこと」を「失敗の連続」として見るのか、「その都度仕切り直している」として見るのか——同じ事実でも、見方が変わると関わり方が変わります。
Dさんが「また入院になりそうだ」と自分から話してきた日がありました。「こうなる前に言えた」ことを、私は内心すごいと思いました。以前は崩れてから気づいていた。今は崩れる前に気づいて、言える。それは大きな変化です。「繰り返すこと」の中に、着実に積み上がっているものがある。その変化を見逃さないことが、関わり続ける力になります。
「また仕切り直す」——その繰り返しが、ある日「崩れる前に気づける自分」になっていく。Dさんを見ていて、そう感じています。
それが、この仕事の醍醐味です。
坂本なつ