こんにちは、精神科の訪問看護師をしている坂本です。この仕事を始めて12年になります。今日は「精神疾患を抱えながら一人暮らしをすること」について、私が現場で感じてきたことを書いてみようと思います。一人で暮らすということは、自由でもあり、同時に静かな不安を抱えることでもある。そのどちらの気持ちも、否定しないで読んでもらえたらうれしいです。

精神疾患を抱えながら一人暮らしをしている人は、思っている以上にたくさんいる。そして、その多くが「自分はちゃんとやれているのだろうか」と、静かに不安を感じながら日々を過ごしているんだよね。

病気の種類も、症状の重さも、生活の形もそれぞれ違う。だから「こうすればうまくいく」という一つの正解なんてない。それでも、12年訪問看護の仕事を続けてきて、「これは伝えておきたいな」と思うことがいくつかある。

今日は、精神疾患を持ちながら一人暮らしをしている人、これから一人暮らしを考えている人、そして「うちの子は一人で暮らせるのだろうか」と心配しているご家族に向けて、現場の実感をもとに話してみたいと思う。

精神疾患があっても一人暮らしはできるのか

最初にはっきり言っておくと、精神疾患があるからといって一人暮らしができないわけではない。実際に、統合失調症やうつ病、双極性障害、不安障害などの診断を受けながら、一人で生活を続けている人はたくさんいる。

ただ、「できる」と「無理なくできる」は違うんだよね。

たとえば、調子がいいときは問題なく過ごせていても、波が来たときに一人で対処しなければならない場面がある。体調が崩れたとき、眠れない夜が続いたとき、薬を飲み忘れが続いたとき——そういうとき、隣に誰かがいるかいないかで、状況の深刻さは変わる。

だから私がいつも思うのは、「一人暮らしができるかどうか」を考えるより、「一人暮らしを支える仕組みがあるかどうか」を考えたほうがいいということ。一人で暮らすことと、孤立して暮らすことは全然違うんだよね。

病気があっても、支えがあれば暮らしていける。逆に、支えがないと、病気が軽くても生活は崩れていくことがある。ここが大事なポイントだと思う。

一人暮らしで起きやすい生活の崩れとそのサイン

一人暮らしをしていて、最初に崩れやすいのは「生活リズム」だと思う。これは精神疾患のある・なしに関係なく、一人暮らしの人に共通する課題でもあるんだけどね。

ただ、精神疾患を抱えている場合、生活リズムの乱れが症状の悪化に直結しやすい。朝起きられなくなる、食事を抜く日が増える、部屋が散らかっていく、ゴミが出せなくなる——こういった変化は、単なる「だらしなさ」ではなくて、体調の変化を映し出していることが多い。

見逃しやすい生活の崩れのサイン

訪問看護の現場で私がよく注意して見ているサインがある。

まず、郵便物がたまり始めるということ。ポストに郵便物がたまっているのは、外に出る気力が落ちているサインのことが多い。請求書や届いた封筒が未開封のまま積み上がっていたりする。

次に、冷蔵庫の中身が変わるということ。自炊していた人がコンビニの弁当ばかりになったり、逆に冷蔵庫がほぼ空っぽになっていたり。食のパターンの変化は、心の状態の変化を反映していることがある。

それから、カーテンが閉まったままの日が続くということ。日中もカーテンを閉め切っている状態が続くと、昼夜逆転が進んでいることが多い。光を入れたくないという気持ち自体が、調子が下がっているサインでもあるんだよね。

そして、薬の飲み残しが増えるということ。薬のシートを見ると、飲み忘れがどのくらいあるかがわかる。数日分まとめて残っていたら、服薬管理がうまくいっていないサインだと思う。

こういう小さな変化は、本人も自覚していないことが多い。だからこそ、定期的に誰かの目が入ることに意味があるんだよね。

訪問看護が一人暮らしを支える仕組みとして機能する理由

精神科の訪問看護というのは、看護師が自宅を訪問して、体調の確認や生活のサポートを行うサービスのことだよね。病院やクリニックに通院している人が利用できるもので、主治医の指示書があれば利用が始められる。

「看護師が家に来る」と聞くと、身体的な介護を想像する人が多いかもしれないけど、精神科の訪問看護は少し違う。もちろん身体の健康もチェックするけど、メインは「話を聞くこと」と「生活を一緒に見ること」なんだよね。

訪問看護が果たす3つの役割

1つ目は、定期的な見守りの目になること。

一人暮らしだと、調子が崩れ始めても気づいてくれる人がいない。でも週に1回でも2回でも、決まった日に看護師が訪問することで、変化に早く気づける。さっき話した「郵便物がたまっている」とか「薬の飲み残しが増えている」とか、そういう小さなサインを拾えるのは、定期的に訪問しているからこそなんだよね。

2つ目は、話し相手になること。

これは軽い話に聞こえるかもしれないけど、一人暮らしをしていると、何日も誰とも話さないということが普通にある。声を出す機会が減ると、気持ちの整理がつかなくなることも多い。訪問看護の時間は、「今週どうだった?」「困っていることある?」という日常的な対話の場でもある。自分の状態を言葉にする練習にもなるんだよね。

3つ目は、生活を一緒に立て直す伴走者になること。

たとえば、「ゴミを出すタイミングがわからなくなった」とか「役所の手続きが溜まっている」とか、そういう生活上の困りごとを一緒に整理していくことも訪問看護の役割の一つ。全部やってあげるわけではないんだけど、「じゃあ、来週の訪問日にゴミの日を一緒に確認しようか」みたいなかたちで、少しずつ生活を立て直していく伴走ができる。

一人暮らしで孤立しないための具体的な工夫

一人暮らしを続ける上で、一番怖いのは「孤立」だと私は思っている。病気の症状そのものよりも、誰ともつながれていない状態のほうが、長い目で見ると深刻な影響を与えることがある。

ここでは、現場でよく見かける「うまくいっているケース」の共通点を、一般的な工夫として紹介してみようと思う。

定期的な「外とのつながり」を意識的につくる

人と会わなくても生活はできてしまう。特にネットスーパーやUber Eatsが普及してからは、本当に一歩も外に出なくても暮らせるようになった。便利なんだけど、これが孤立のリスクを高めている部分もある。

だから、「意識的に」人と接点を持つ仕組みを作っておくことが大事なんだよね。それは訪問看護でもいいし、デイケアに通うことでもいいし、週に一度だけ近所のコンビニに歩いて行くということでもいい。大事なのは、「自分が生きていることを誰かが知っている」という状態を保つことだと思う。

調子が悪いときの「最低限のルール」を決めておく

精神疾患を抱えていると、調子のいい日と悪い日の波がある。調子がいいときに「調子が悪いときはこうする」というルールを決めておくと、崩れたときのダメージを小さくできる。

たとえば、こういうことだよね。

「3日連続で外に出られなかったら、訪問看護師に電話する」
「食事が取れない日が2日続いたら、主治医に相談する」
「眠れない夜が続いたら、頓服を使っていいと自分に許可を出す」

これは自分のためのセーフティネットのようなもの。調子が悪いときには判断力も落ちるから、元気なときに「ここまで来たら助けを求めていい」というラインを決めておくと、助けを求めやすくなる。

完璧な生活を目指さない

これは本当に声を大にして言いたいんだけど、一人暮らしで精神疾患を抱えていて、それでも毎日完璧に生活できている人なんて、ほとんどいないと思う。

洗い物がシンクに溜まる日もある。洗濯物を何日も取り込めない日もある。ゴミ出しを忘れる日もある。それでいいんだよね。というか、それが普通だと思う。

よくある話として、「部屋が散らかっていて訪問看護師に見られたくない」という理由で訪問を断ろうとする人がいるんだけど、私たちは散らかった部屋を見ても何とも思わない。むしろ、その状態を見ることで「今ちょっと大変なんだな」ということがわかるから、そのまま見せてくれたほうがありがたいくらいなんだよね。

家族が知っておきたいこと——過干渉と放置の間

精神疾患を持つ家族が一人暮らしをしていると、心配するなという方が無理だと思う。「ちゃんと食べてるのかな」「薬は飲めてるのかな」「何かあったらどうしよう」——そういう気持ちは当然のものだよね。

ただ、現場で長く見てきて思うのは、心配のあまり過干渉になることが、結果的に本人の自立を妨げてしまうことがあるということなんだよね。

毎日のように電話をかけて「ちゃんとやってる?」と聞く。突然訪問して冷蔵庫をチェックする。「やっぱり一人暮らしは無理なんじゃない?」と言う。——こういうことが続くと、本人は「自分は信頼されていない」と感じてしまう。そして、家族に状況を伝えなくなる。

かといって、完全に放置するのもまた違う。連絡が取れない期間が長くなっていたり、明らかに生活が立ち行かなくなっているサインがあるのに見て見ぬふりをするのは、尊重とは違うと思う。

ちょうどいい距離感を作るために

じゃあどうすればいいのかというと、「本人以外の支援者を作る」ことが一つの方法だと思う。

家族が直接すべてを見守ろうとすると、関係性が「親子」から「監視と被監視」に変わってしまうことがある。でも、訪問看護やヘルパーなどの第三者が間に入ることで、家族は「支援者」ではなく「家族」でいられるようになる。

「看護師さんが週に2回見てくれているから」という安心感があるだけで、家族の心配は少し軽くなる。そして、本人も「家族以外に見守ってくれる人がいる」という安心感を得られる。

家族と本人の間に、緩やかなクッションのような存在がいること。これが長期的に一人暮らしを続けていくうえで、とても大事な構造なんだよね。

訪問看護を利用するまでの流れと費用のこと

精神科訪問看護を利用してみたいと思っても、どうすればいいのかわからない人も多いと思う。ここでは、一般的な流れを説明してみるね。

利用開始までの流れ

まず、主治医に相談すること。精神科訪問看護は、主治医の「訪問看護指示書」がないと始められない。だから、最初のステップは通院先の主治医に「訪問看護を利用したい」と伝えることなんだよね。

主治医に自分から言い出しにくい場合は、クリニックの相談員やソーシャルワーカーに相談してもいい。「一人暮らしで生活が少し不安で……」と伝えれば、適切な窓口につないでくれることが多い。

次に、訪問看護ステーションを決める。精神科に対応している訪問看護ステーションを探す必要がある。主治医やクリニックから紹介してもらえることもあるし、自分で探すこともできる。市区町村の障害福祉課に相談すると、地域の訪問看護ステーションの情報を教えてもらえることもあるよ。

その後、初回の訪問で面談をする。看護師が自宅を訪問して、生活の状況や困っていること、どんなサポートが必要かを一緒に確認する。ここで「こういうことを手伝ってほしい」「こういう頻度で来てほしい」という希望を伝えればいい。

費用について

精神科訪問看護の費用は、医療保険が適用される。自立支援医療(精神通院医療)の制度を利用していれば、自己負担は1割になる。この制度を使えば、月あたりの自己負担にも上限が設けられるので、経済的な負担はかなり軽減される。

自立支援医療の申請をまだしていない場合は、これを機に申請することをおすすめする。通院先の窓口や市区町村の障害福祉課で手続きできるよ。

正直に言うと、費用の心配で訪問看護を躊躇する人は少なくないんだよね。でも、制度をうまく使えば、月に数百円から数千円程度で利用できることが多い。「そんなに安いの?」と驚く人もいるくらいで、費用面のハードルは思っているほど高くないと思う。

一人暮らしの生活を支える他の制度やサービス

訪問看護だけが一人暮らしを支えるわけではない。精神疾患を持ちながら一人で暮らしている人が使える制度やサービスは、実はいろいろある。知らないだけで使えるものが眠っていることも多いんだよね。

障害福祉サービス

居宅介護(ホームヘルプ)は、家事や身の回りのことを手伝ってくれるサービス。掃除、洗濯、買い物、調理などを支援してくれる。精神障害者保健福祉手帳を持っていなくても、自立支援医療の対象であれば利用できることがある。

就労継続支援(A型・B型)は、働くことに不安がある人が、支援を受けながら働ける場所。特にB型は、体調に波がある人でも自分のペースで通えることが多い。「いきなりフルタイムで働くのは難しいけど、何かしたい」という人には一つの選択肢になると思う。

地域活動支援センターは、日中の居場所として機能している場所。仕事というほどではないけど、人と接する機会が持てる。孤立防止という意味でも、こういう場所を知っておくのは大事だよね。

経済面のサポート

障害年金は、一定の障害状態にある場合に受給できる年金。精神疾患でも対象になることがある。申請には診断書が必要で、手続きが少し複雑なんだけど、社会保険労務士に相談することもできる。

生活保護は、収入が生活保護基準を下回る場合に利用できる制度。「生活保護を受けるのは恥ずかしい」と感じる人もいるかもしれないけど、これは権利として認められた制度だよね。生活の基盤を安定させることが、治療にも回復にもつながるということを忘れないでほしい。

こういった制度は、自分から申請しないと利用できないものがほとんど。だから、訪問看護師やソーシャルワーカーに「使える制度がないか教えてほしい」と聞いてみてほしいんだよね。知っているだけで、生活の選択肢が広がることがある。

「助けを求めること」は弱さではない

ここまでいろいろ書いてきたけど、最後にどうしても伝えたいことがある。

精神疾患を抱えながら一人暮らしをしている人の中には、「自分で全部やらないといけない」と思い込んでいる人が少なくないんだよね。助けを求めることを「負け」だと感じたり、「迷惑をかける」と思ってしまったりする。

でも、助けを求めることは弱さじゃない。むしろ、「自分の状態を把握して、必要な対処ができている」という意味で、とても強い行動だと思う。

よくある話として、ギリギリまで一人で頑張り続けて、もう動けなくなってから初めてSOSを出す人がいる。そうなると、回復にも時間がかかるし、一人暮らし自体が続けられなくなることもある。

「ちょっとしんどいな」と思った段階で手を挙げること。それが、一人暮らしを長く続けるための一番のコツかもしれない。

小さな一歩でいい

いきなり訪問看護を申し込むのがハードルが高いなら、まずは主治医に「最近ちょっと一人暮らしがきつい」と一言伝えるだけでもいい。それだけで、主治医が訪問看護やその他のサービスにつないでくれることもある。

電話が苦手なら、次の診察のときにメモに書いて渡してもいい。「口で説明するのが苦手なので、メモを書いてきました」と言えば、大抵の医療者は丁寧に読んでくれる。

一人で全部を抱え込む必要はない。少しずつ、自分の生活に風穴を開けていければ、それでいいと思うんだよね。

精神疾患と一人暮らしのよくある疑問

病状が急に悪化したらどうすればいい?

まず、緊急時の連絡先をあらかじめ確認しておくことが大事。通院先の病院の夜間対応があるか、地域の精神科救急の電話番号は何か、こういった情報を紙に書いて、見えるところに貼っておくといい。スマートフォンの電話帳に「緊急」として登録しておくのも一つの方法だよね。

訪問看護を利用している場合は、訪問看護ステーションに連絡するという選択肢もある。営業時間外の対応は事業所によって異なるけど、相談に乗ってくれるところも多い。

「こんなことで連絡していいのかな」と迷う人が多いんだけど、迷った時点で連絡していいと私は思っている。結果的に大したことがなかったとしても、「連絡できた」という経験自体が次につながるから。

一人暮らしを始めるタイミングはいつがいい?

これは本当に人それぞれなんだけど、「症状が完全に落ち着いてから」と考えていると、いつまでも踏み出せないことがある。大事なのは、完全に安定していることよりも、「崩れたときにリカバリーできる仕組みがあるかどうか」だと思う。

通院が継続できていて、服薬管理がある程度できていて、困ったときに連絡できる先がある。この3つが揃っていれば、一人暮らしを始めてみてもいいんじゃないかと個人的には思う。もちろん、主治医とよく相談した上でね。

訪問看護師に何を話せばいいかわからない

無理に何かを話す必要はないんだよね。「特に何もないです」でも全然いい。訪問看護師は、話の内容だけでなく、表情や部屋の様子、声のトーンなど、いろいろなところから情報を受け取っている。

もし話したいことがあるけどうまく言葉にできないなら、「なんかモヤモヤする」「言葉にできないけど調子悪い」と、そのまま伝えてくれればいい。そこから一緒に言葉を探していくのも、私たちの仕事の一部だから。

まとめ——一人で暮らすけど、一人じゃない

精神疾患を抱えながら一人暮らしをするということは、決して簡単なことではない。調子のいい日もあれば、何もかもが嫌になる日もある。「自分にはやっぱり無理なのかもしれない」と思う夜もあるかもしれない。

でも、一人で暮らすことと、一人きりで頑張ることは違う。

訪問看護をはじめとして、使える制度やサービスはある。それを使うことは甘えではないし、弱さでもない。自分の生活を守るための、とても現実的な選択なんだよね。

完璧じゃなくていい。毎日ちゃんとできなくていい。洗い物が溜まっても、ゴミ出しを忘れても、それで人生が終わるわけじゃない。

「ちょっと手伝ってもらおうかな」——そう思えたとき、それはもう十分に、自分の生活を守るための一歩を踏み出していると思う。

一人で暮らしている。でも、一人じゃない。そういう状態を一緒に作っていけたらいいなと、私はいつも思っているんだよね。

ここまで読んでくれて、ありがとう。精神疾患を抱えながら一人暮らしをすることに不安を感じている人にとって、少しでもヒントになれたらうれしいです。もし今つらい状況にいるなら、一人で抱え込まないでほしい。あなたの生活を一緒に支える人は、きっと見つかるから。——坂本
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