「おやすみ」と言えるようになるまで

精神科の訪問看護をしていると、「眠れない」という訴えは毎日のように聞く。

眠れない理由は人によって違う。不安で頭が止まらない人、声が聞こえて目が覚める人、薬が変わって体のリズムが崩れた人。「眠れない」という三文字の後ろに、それぞれの夜がある。

Aさんは20代の女性だった。うつ状態が続いていて、夜になると「死にたい気持ちが出てくる」と話していた。昼間はそうでもないのに、夜だけが怖いと言った。

私は毎回、訪問の終わりに「今夜眠れそうですか」と聞くようにしていた。「わからない」と言う日もあれば、「たぶん大丈夫」と言う日もあった。

半年くらい経った頃、Aさんがぽつりと言った。「最近、ちゃんと寝られてる」。

薬が安定したこともある。でも私が印象に残っているのは、その少し前に「寝る前に、自分に『おやすみ』って言ってみてる」と話してくれたことだった。

誰かに「おやすみ」と言ってもらえる人ばかりじゃない。一人で暮らしていたら、誰にも言わないまま夜が来る。Aさんはそれを、自分自身に向けるようにしていた。

「おやすみ」と言えるようになるまでに、Aさんにはずいぶん時間がかかった。それが今も、頭に残っている。

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