「声が聞こえる」——統合失調症と幻聴について、精神科訪問看護師が書いておきたいこと

統合失調症という診断を受けたとき、多くの人が最初に戸惑うのは「幻聴」という症状だ。

「声が聞こえる」という体験は、経験したことのない人には伝わりにくい。でも、精神科の訪問看護をしていると、この体験を抱えながら生活している人に、たくさん出会う。

Aさんは20代の男性だった。

訪問を始めた頃、「イライラが止まらない」「夜眠れない」という訴えが続いていた。バイタルを確認し、薬の服用状況を確認し、少し話して帰る。そういう訪問が続いていた。

ある日、Aさんがぽつりと言った。

「夜、声が聞こえるんです。もう何ヶ月も」

私は少し間を置いてから、「それはいつ頃からですか?」と聞いた。

「ずっと前から。半年くらい」

半年間、誰にも言えていなかった。「変な人やと思われるから」と、Aさんは言った。


Bさんは60代の男性で、長く精神科に通っていた。

GAF(機能の全体的評価)は25。日常生活のほとんどの面で、かなり重い状態だった。

妄想の影響が強く、「誰かに見られている気がする」という体験が続いていた。外には出られず、ほぼ一日床で過ごしていた時期もある。

統合失調症の幻聴や妄想は、本人にとってはリアルな体験だ。「気のせいだ」と言われても、その声や感覚は消えない。


なぜ「言えない」のか。

「声が聞こえる」という体験は、「頭が痛い」「眠れない」とは違う重さを持っている。「変な人」「怖い人」というイメージが社会の中にある。だから言えない。

でも、言えないまま過ごすことで、治療の機会が遅れる。

Aさんの場合、主治医に幻聴のことを伝えると、薬が追加・変更された。数週間後、「声が聞こえなくなった」と言った。「イライラも減った」と。

半年間抱えていた症状が、薬で変わった。「言えた」から、変えることができた。


統合失調症の薬は、幻聴や妄想に対して一定の効果がある。すべての人に完全に効くわけではないが、「症状が和らぐ」「聞こえる頻度が減る」という変化は起きやすい。

Aさんのように、「聞こえなくなった」という体験をした人は少なくない。

だからこそ、「言える」という環境が大切だと思っている。


訪問看護師として私がやっていることのひとつは、「聞ける場所になること」だ。

「それはいつからですか」「誰かに話したことはありますか」という問いを持ちながら関わること。

Aさんが「声が聞こえる」と言えたのは、訪問を重ねる中で少しずつ関係が積み重なったからだと思っている。

声が聞こえることは、あなたがおかしいのではない。統合失調症という病気の症状だ。主治医や、信頼できる支援者に、話してみてほしい。

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