※今この瞬間、身に危険が及んでいる、または刃物などで脅されている場合は、本記事を読み進める前に110番へ通報してください。家を離れて安全を確保したあと、本記事や相談窓口を確認してください。本記事は、繰り返し起きる暴力に家族がどう対応するかの整理です。
精神疾患の家族からの暴力は、外から見えにくく、家族の側が抱え込みやすい問題のひとつ。「病気だから仕方ない」「私が我慢すれば」「外に話したら本人がもっと悪くなる」── こうした感覚が積み重なるうちに、家族の心身が深く削られていく。本稿は、暴力への対応を「安全確保が最優先」という1点に絞ったうえで、家族が動ける窓口と長期的な選択肢を整理する。
この記事で整理できること
- 「精神疾患による暴力」と「症状とは別の暴力」を分けて考える視点
- 暴力が起きた瞬間の安全確保(避難・通報)
- 「病気だから仕方ない」と家族が我慢しなくていい理由
- 警察通報を「事件にする」と捉えなくていい場合がある理由
- 避難先・別居・離婚・施設利用など、長期の選択肢
まず確認 ─ 安全確保がすべてに優先する
本記事は家族との関係修復や本人の支援についての記事ではない。家族の身体的・心理的安全の確保を最初の判断軸として置く。安全が確保できていない状態で、本人の症状や治療を考えても、家族側が先に倒れる。
次の段階に当てはまる場合は、本記事のあとの内容より先に、緊急対応の窓口へ連絡してください。
- 今この瞬間、身に危険がある/刃物などで脅されている → 110番
- けがをしている/意識が遠のく感覚がある → 119番
- 子どもへの暴力が及んでいる、または及ぶ可能性がある → 児童相談所または110番
- 配偶者・パートナーからの暴力(DV) → 配偶者暴力相談支援センターまたは「#8008(DV相談ナビ)」
「精神疾患による暴力」と「症状とは別の暴力」を分ける
家族の側が混乱しやすいのは、本人の暴力を「症状のせい」と全部処理してしまうこと。実際には、精神疾患の有無に関わらず、暴力は暴力として扱うべき場面がある。次のように分けて見る視点が必要になる。
1. 急性期の症状による暴力
幻覚や妄想が強い時期に、本人が「攻撃されている」と感じて反撃する場合などがこのカテゴリ。本人の意思の問題ではなく、症状そのものへの医療対応が必要な段階。措置入院・医療保護入院が検討される場面もある。
2. 症状の波と関係なく続く暴力
本人の調子に関わらず、長年にわたって続く家族への暴力は、精神疾患を理由にできない部分がある。性格・関係性の歴史・家族内の力関係などが関与している可能性があり、医療だけでは解決しない領域に入っている。
3. 飲酒・薬物の影響下での暴力
アルコール依存や薬物の使用と暴力が重なっている場合、依存症の治療と並行した対応が必要になる。詳しくは アルコール依存の家族と暮らすときの3つの線。
家族が「これは病気のせい」と全部処理してしまうと、家族の側だけが我慢する構造が固定化する。分けて見る視点を持つことが、外の支援につながる最初の一歩になる。
暴力が起きた瞬間の安全確保
暴力が起きている/起きそうな瞬間にやることは、論理ではなく動作の順番として整理する。
1. その場を離れる
同じ空間にいると被害が広がる。別の部屋、玄関の外、近くのコンビニ・車・知人宅など、物理的に離れる動作を最優先にする。「相手を刺激しないように」と動かないより、離れる方が安全。
2. 110番・救急への通報をためらわない
「警察を呼ぶと本人が事件にされる」「あとで関係が悪化する」と家族が躊躇する場面が多いが、実際には警察の対応は次の選択肢の中から選べる。
- その場の沈静化のための臨場(保護的対応)
- 精神保健福祉法に基づく対応への引き継ぎ(精神科救急情報センター・指定医による診察)
- 必要に応じての事件化(家族の意思による)
通報=必ず事件にする、ではない。家族の安全確保のための行政的な動きとして、警察を選択肢に入れていい。
3. けがの記録を残す
けがをした場合、写真と日時、状況の簡単なメモを残す。医療機関を受診した場合は診断書をもらっておく。今後の支援機関や弁護士への相談、別居・離婚を検討する段階での資料になる。
「病気だから仕方ない」と家族が我慢しなくていい理由
精神疾患の家族介護を続けるうえで、家族の側が「我慢の限界」を更新し続ける構造になりやすい。これは家族の優しさではあるが、長期的には次の問題を生む。
- 家族自身の身体・精神が深く削られる
- 家族が倒れると本人の支援が止まる
- 暴力の範囲が広がる(家族の友人・子ども・近隣)
- 本人自身が「家族なら殴っていい」という構造を固定化する
家族が我慢を一度止めて支援機関に話すことは、家族のためであると同時に、本人にとっての治療環境を整えることにもつながる。
長期の選択肢 ─ 避難・別居・施設・離婚
暴力が繰り返される場合、家族が「我慢して同居を続ける」以外の選択肢を持っておく必要がある。次のような道筋がある。
1. 一時避難(数日〜数週間)
実家、知人宅、配偶者暴力相談支援センターのシェルター、ビジネスホテル。「家から出る」体験を一度経験することで、家族側の判断力が回復する。
2. 別居
本人と別の住居に分かれる。本人が一人で生活できる状態でなければ、訪問看護・ヘルパー・グループホームなど在宅支援を入れたうえでの別居になる。指定特定相談支援事業所が一緒に組み立てる。
3. 本人の入院・施設利用
本人の症状によっては、入院や施設利用が現実的な選択肢になる。詳しくは 家族に精神科入院を勧めるとき家族が事前に整える順番。
4. 法的手続き(離婚・接近禁止命令)
配偶者・パートナーからの暴力の場合、法的手続きが選択肢になる。配偶者暴力相談支援センター、法テラス、弁護士相談を経由して進める。
やってはいけない対応
- 「病気だから仕方ない」と全部処理する:家族の安全が後回しになる
- 本人を刺激しないために動かない:危険な瞬間こそ離れる
- 通報を「本人を裏切る行為」と感じて我慢する:通報は安全確保の手段で、裏切りではない
- けがの記録を残さない:あとで支援を求めるときの資料がなくなる
- 家族の中で「外には言わないで」と口止めし合う:家族が孤立し、消耗が深まる
- 家族が一人で全期間を支える:警察・行政・医療・家族会の複数の窓口と並行する
相談先・制度
- 緊急時:110番/119番
- 夜間休日の精神科対応:地域の精神科救急情報センター
- 配偶者暴力相談支援センター/DV相談ナビ #8008
- 地域の保健所(精神保健福祉相談)
- 精神保健福祉センター(家族だけでも相談可)
- 児童相談所(子どもへの被害が及ぶ場合)
- 家族会(NPO 全国精神保健福祉会連合会・みんなねっと)
- 法テラス・弁護士相談(法的手続きを検討する場合)
- 24時間電話相談:よりそいホットライン 0120-279-338
整理し直すと
- 家族の安全確保がすべてに優先する。本人の症状や治療より先
- 「精神疾患による暴力」と「症状とは別の暴力」を分けて見る。全部「病気のせい」にしない
- 暴力が起きた瞬間は「離れる/通報/記録」の3つだけ
- 通報=事件化ではない。安全確保の選択肢として警察を持っておいていい
- 長期の選択肢として、一時避難・別居・本人の入院/施設・法的手続きまでの道筋を支援機関と整える
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※この記事についての注意
本記事は、精神科の診断・治療・薬の判断を提供するものではありません。本人の症状や対応の判断が必要な場合は、主治医・かかりつけ医・各地域の精神保健福祉センター・保健所に直接ご相談ください。
家族の身に危険が及ぶ恐れがある場合は、110番・119番・配偶者暴力相談支援センター(#8008)・地域の精神科救急情報センターをご利用ください。緊急時は本記事を読み進めるよりも、上記窓口への連絡を優先してください。
記載している支援機関の情報は2026年5月時点のものです。最新情報は厚生労働省・各自治体の公式サイトでご確認ください。