本人が病院に行こうとしない。本人を連れていけないけれど、家族としては誰かに話を聞いてほしい ─ そういうときに「家族だけで相談していいのか」と迷う場面が多い。本稿は、家族だけで使える相談窓口を「どこに」「何を」「いつ」相談するかで整理する。
この記事で整理できること
- 家族だけで相談できる窓口の種類と、それぞれの役割の違い
- 「どの窓口に何を相談するか」の使い分け
- 1本目の電話で何を話せばいいか
- 窓口に行くときに紙で持っていける整理シート
- 家族だけで動いていいかの判断軸
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まず確認 ─ 家族だけで相談していい
結論からいうと、精神保健の領域では「家族だけで相談する」のは想定された使い方であって、特別なことではない。本人の同意がないと相談できない、という制限がある窓口は限られている。
多くの窓口が「家族が本人の代理で来談する」ことを最初から想定していて、匿名でも受け付ける。電話の冒頭で「家族のことで相談したい」と伝えれば話が進む。
本人の同意がいる場面は、たとえば次のような限定された範囲になる。
- 本人のカルテ情報を医療機関から開示してもらう(個人情報の壁)
- 本人を対象にした医療サービス(訪問看護・往診など)を契約する
- 本人名義で福祉サービス(自立支援医療・障害年金)を申請する
これら以外、つまり「家族としてどう動けばいいか」「本人の様子をどう見ればいいか」「使える支援にはどんなものがあるか」は、本人の同意なしに家族が相談できる範囲に入る。
家族だけで使える窓口 ─ 5つの種類
家族だけで動ける窓口は、大きく5つの種類に分けられる。それぞれ役割が違うので、相談内容で使い分ける。
1. 地域の保健所(精神保健福祉相談)
各都道府県・政令市の保健所が窓口になる。「精神保健福祉相談」と伝える。匿名で電話相談ができる。
相談に向いている内容:本人の様子で気になることがある/どこから動けばいいかわからない/受診先の選び方
窓口の特徴:地域に密着していて、本人の住所地に対応した支援機関を紹介してくれる。最初の1本目の電話としていちばん使われる窓口。
2. 市区町村の障害福祉課・保健センター
本人の住所地の市役所・区役所の障害福祉課(自治体によって名称が違う)。
相談に向いている内容:自立支援医療・精神障害者保健福祉手帳・障害年金などの制度の使い方/指定特定相談支援事業所の紹介
窓口の特徴:制度の手続きが必要になる段階で使う。本人が動けない期間は家族が代行で書類取りや情報収集ができる。
3. 精神保健福祉センター
都道府県・政令市ごとに設置されている専門機関(全国に69か所、2026年5月時点)。家族だけで来談できるし、家族向けのプログラムを持っている地域もある。
相談に向いている内容:本人の症状が複雑で見立てが難しい/長期化していて家族側が消耗している/専門的なアドバイスが欲しい
窓口の特徴:保健所より専門性が高い。電話・来談・予約面接を組み合わせて、家族向けに継続的な相談ができる。
4. 指定特定相談支援事業所
障害福祉サービスを使う・使うかもしれない人とその家族のための相談窓口。市区町村が一覧を持っている。
相談に向いている内容:本人が将来的に障害福祉サービス(就労支援・グループホーム・自立訓練など)を利用しそう/本人の生活全体の組み立てを一緒に考えてほしい
窓口の特徴:「計画相談」と呼ばれるサービスを通じて、本人と家族の生活全体に伴走してくれる。本人の同意があれば本人側の支援にも入れる。
5. 家族会(NPO 全国精神保健福祉会連合会「みんなねっと」など)
同じ立場の家族が集まる場。各都道府県に支部があり、月に1〜2回の例会を持っているところが多い。
相談に向いている内容:同じ立場の家族と話したい/解決を急がず、自分の話を聞いてほしい/長期戦の構えを学びたい
窓口の特徴:専門機関とは違う、横のつながりの場。解決よりも「自分だけじゃない」という感覚が得られる。
1本目の電話で話すこと ─ 3つだけでよい
最初の電話で全部話そうとすると、家族の側が消耗する。1本目で話すことは3つに絞っていい。
- 家族としてどんな関係か(父・母・配偶者・きょうだい・子)と、本人の年代
- 気になっていることを1つだけ(眠れていない、外に出ない、怒鳴る、など)
- 今いちばん知りたいこと(受診先を知りたい/家での接し方を知りたい/制度のこと、など)
診断名や症状の細かい経緯を伝える必要はない。それは2回目以降の面接で十分。
1本目の電話の目的は「家族として、ここから動ける」と知ることになる。窓口の人も、1本目で全部を解決するつもりはない。「次に何をすればいいか」だけ持ち帰れれば、その1本は成功にあたる。
「家族だけで動いていいか」迷うときの判断
家族だけで動くことに罪悪感を持つ人がいる。「本人に黙って動いていいのか」「裏で何かしている感じがする」と感じることがある。
判断の軸は次の3つで整理できる。
- 本人の安全と家族の安全を守る範囲:これは家族の責任に含まれる範囲なので、本人の同意を待たずに動ける
- 本人を直接動かす範囲:本人の医療・契約・申請など。これは本人の同意が必要になる
- 家族自身が知識を持つ範囲:制度・支援機関・対応の知識を家族が持つこと。これは本人の同意とは関係ない
1本目の電話・家族会への参加・情報収集は、3つ目の「家族自身が知識を持つ範囲」に入る。本人に隠れて何かを進めているのではなく、家族として準備をしているだけ。
本人にあとで「実は精神保健福祉センターに相談したよ」と伝えるかどうかは別の判断。最初から本人に共有する必要はない。
やってはいけない対応
- 1本目の電話で全部を解決しようとする:1本目はゴールではなく、地図を手に入れる場所
- 本人の症状を全部覚えてから電話しようとする:覚えなくていい。「気になっていることを1つ」で始まる
- 家族の中で「電話する係」を1人に任せきりにする:1人で抱えると消耗する。家族間で交代するか、家族会で外に出す
- 窓口で「本人を連れてきてください」と言われて諦める:別の窓口を試す。本人同伴が前提でない窓口は複数ある
- 家族として「相談する資格があるか」を悩む:精神保健の領域では、家族の相談は想定された使い方
窓口を1つ選ぶときの軸
5種類のうちどれから始めるか迷うときは、次の優先順で考えると整理しやすい。
- 今夜の安全が気になる → 夜間休日は精神科救急情報センター(地域別)
- 本人の様子で気になることがある/どこから動けばいいか → 地域の保健所
- 制度の手続きが必要になりそう → 市区町村の障害福祉課
- 長期化している/専門的に聞きたい → 精神保健福祉センター
- 同じ立場の人と話したい → 家族会
最初に1か所だけ選んで電話する。複数を同時に試そうとすると、それぞれで話す内容が浅くなる。
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整理し直すと
- 家族だけで相談していい。精神保健の領域では家族の相談は想定された使い方
- 窓口は5種類に分かれる:保健所/障害福祉課/精神保健福祉センター/指定特定相談支援事業所/家族会
- 1本目の電話で話すのは3つだけでよい:家族の立場/気になること1つ/今知りたいこと1つ
- 家族だけで動くことに罪悪感を持たない。家族として準備するのは本人を裏切ることではない
- 5種類のうち最初に1か所だけ選ぶ。複数同時は浅くなる
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※この記事についての注意
本記事は、精神科の診断・治療・薬の判断を提供するものではありません。本人の症状の評価や対応の判断が必要な場合は、主治医・かかりつけ医・各地域の精神保健福祉センター・保健所に直接ご相談ください。
本人または家族の身に危険が及ぶ恐れがある場合は、110番・119番・お住まいの地域の精神科救急情報センター・いのちの電話・よりそいホットラインをご利用ください。
記載している支援機関の情報は2026年5月時点のものです。最新情報は厚生労働省・各自治体の公式サイトでご確認ください。